医療事情
水・衛生事情
ヒマラヤ山脈に位置するネパールは、豊富な水資源を有する一方で、地理的・経済的理由から水・衛生の環境整備は不十分な状況です。
ネパール全土で安全に管理された飲料水にアクセスできるのは人口の19.0%、基本的な水供給にアクセスできるのは76.4% (※1 )。上水道は首都カトマンズでも未整備であり、浄水場のない水道も多く存在します。
特に山岳地域や農村部では、河川などの消毒されていない生水を使用するため、雨季にはコレラや赤痢、A型・E型肝炎などの水系感染症が発生しやすい状態となっています(※2)。
また、ネパール全土で安全に管理されたトイレを利用できるのは人口の61.1%、一方で屋外排泄率は人口の5.0%と言われています(※1)。
重要指標
ネパールでは、これまで政府が保健分野における国家政策を実施し、感染症の死亡率が減少しました。2019年にはネパールの平均寿命は70.9歳(日本:84.3歳)となり(※1)、2000年と比較し大幅に伸長しました。しかし、日本や世界と比較すると依然として低い水準にとどまっています。
ネパール政府は、母子保健に関する課題にも取り組んできました。その結果、5歳未満児の死亡率(出生1,000人あたりの推定死亡数)は過去30年間で5分の1以下となり、大幅に改善されています。2021年には27まで減少しましたが、それでも日本の約13倍(※2)。また、ネパールの新生児の死亡率(出生1,000人当たりの死亡数)は日本の20倍と非常に高い状態です(※2)。
ネパールでは、5人に1人の妊婦さんが安全に出産するために必要な4回の妊婦検診を受けておらず、専門技能を有する医療従事者が立ち合わずに出産をしています(※5)。これらは地理的問題やヘルスリテラシーの低さなどに起因しており、新生児の死亡率の高さや妊産婦死亡率にも関係していると言われています。
*数値はすべて2022年の調査以前2年間のネパール全国における死産を含む出産のうち
主要な死亡原因
近年の都市化の進展とライフスタイルの変化に伴い、ネパールでは非感染性疾患(NCD)が著しく増加しています。NCDは不健康な食事・運動不足・喫煙・飲酒などの生活習慣に起因とする疾患で、2019年には慢性閉塞性肺疾患(COPD)が最も多い死因となりました。次いで、虚血性心疾患や結核が死亡原因のうち大きな割合を占めています(※)。
*:NCD
医療資源
ネパールでは、医師や看護師をはじめとする医療従事者が不足していることに加え、病院や医療機器、医薬品など医療インフラの整備も不十分な状態です。
多くの医療機関および医療従事者は、カトマンズ周辺に集中しており、経済的・地理的な制約から僻地では5~6時間歩いて医療機関に行くことも珍しくありません。
また、医療施設の機能にも限界があり、例えば、糖尿病の検査項目である血糖値を測定することができる医療機関はネパール全土でもたったの23%です(※1)。